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面談の前日、営業は何をしているか|SES商談前夜の準備の構造

SESの顧客面談の前日、営業の机で何が準備されているのか。想定問答の作成、触れられたくない話題の「握り」、事前面談の実態と準委任契約における面談の位置づけを、SES仲介の現役事業者が構造として解説。前日にエンジニアがやるべき三つも示す。

断言する。面談の勝敗の半分は、前日の夜までに決まっている。当日のあなたの受け答えが左右するのは、残りの半分にすぎない。SESの「面談」——顧客との顔合わせ、商談と呼ばれるあの一時間の裏側で、営業は前日、机に向かって何をしているのか。本稿はその作業の中身を、構造として開示する。

先に立場を明らかにしておく。本サイト運営者はSES仲介の現役事業者である。面談の前日に何を書き、何を消し、何を「握る」のか。それを日常業務として行っている側の人間だ。ただし、特定の会社や個人の話はしない。業界に広く存在する準備の型を、類型として書く。読み終えたとき、あなたは面談前夜の営業と同じ景色を見ているはずである。

作業その一 — 想定問答という名の弱点管理

営業が前日に最初にやるのは、想定問答の作成である。といっても、模範解答集を作るわけではない。実際にやっているのは、弱点の洗い出しだ。

顧客がスキルシートのどこで手を止めるか。営業はそれをかなりの精度で予測できる。経歴の空白期間。数ヶ月で終わっている現場。担当工程に「設計」とあるのに成果物の記述がない行。使用技術の欄には並んでいるのに、経歴本文に一度も登場しない言語。読み慣れた人間の目には、突かれる場所は光って見える。顧客側の担当者も同じ訓練を積んでいるから、当日の質問は高い確率でそこに集中する。姉妹記事のスキルシートの読まれ方で書いた通り、シートは読まれるのではない。査定されるのだ。

だから営業は、弱点ごとに「どう答えてもらうか」を用意する。空白期間なら理由の伝え方。短期離任なら、契約満了という事実の置き方。ここまでは健全な準備である。問題は、この準備が事実の整理を超えて、事実の加工に踏み込む瞬間があることだ。前日に渡された想定問答に、あなたの記憶と違うことが書かれていたら、それは加工が始まった合図である。当日ではなく、その夜のうちに営業へ確認するべきだ。

作業その二 — 「言わないでほしいこと」の握り

二つ目の作業は、あまり表で語られない。営業とエンジニアの間で交わされる「この話題には触れないでほしい」という事前のすり合わせ。業界の言葉でいう「握り」である。触れられたくない話題の筆頭は三つ。単価、商流、稼働条件だ。

話題営業が避けたい理由前日にあなたが確認すべきこと
単価本人の認識額と顧客の支払額の間に、複数の会社の取り分が挟まっている自分の単価がいくらで顧客側に提示されているか
商流間に入る会社の数を、顧客にも本人にも意識させたくない自分とエンド企業の間に何社入っているか
稼働条件残業・リモート・副業の本音で商談が壊れるのを避けたい譲れない条件を営業と共有できているか

誤解のないように言うが、握りのすべてが悪ではない。契約条件の詳細のように、答える権限が本人にない事項を営業が引き取るのは、役割分担として正当である。問題は、本人に不利益な情報——たとえば商流の深さ——を隠すために握りが使われるときだ。構造の詳細は商流解説に譲るが、商流が深い案件ほど、この話題の回避は徹底される傾向がある。前日に受けた「これは言わないで」という依頼が、役割分担なのか隠蔽なのか。それを見分ける目を持ってほしい。

作業その三 — 事前面談と、「面談」という言葉の緊張関係

三つ目は、顔合わせの前に行われる事前のすり合わせ、いわゆる事前面談である。当日の出席者。質問の傾向。顧客が重視するポイント。取れる情報は前日までに取り、エンジニアに渡す。ここまでやる営業は、率直に言って良い営業である。前日に何の連絡もなく、集合時間だけが送られてくる案件とは、準備の質がまるで違う。

なぜ営業にそれができるのか。情報の非対称性である。あなたにとって初対面のその顧客に、営業は過去に何人も提案している。前回どんな質問が出たか。どういう経歴の人が通り、どういう人が見送られたか。同じ窓口と何度も向き合ってきた蓄積が、営業の手元にはある。面談とは、初見のエンジニアと、手の内を知り尽くした二者が同席する場なのだ。この格差を埋める情報を前日に引き出せるかどうかは、あなたの側の交渉でもある。

ただし、この「面談」という言葉自体に、業界の緊張関係が埋め込まれていることは知っておいていい。SESの多くは準委任契約であり、建前の上では、顧客が個人を選考する「面接」ではないとされている。選考の色が濃くなるほど、契約の形式と実態の距離という論点に近づくからだ。だから業界はこれを「面談」「顔合わせ」と呼び、選考ではないという建付けを保っている。個々の現場の実態がどう評価されるかについて、本稿は法的な断定をしない。ただ、営業が前日に言葉遣いまで仕込むのは、この建付けを守るためでもある。その構造だけは指摘しておく。

では、エンジニアは前日に何をすべきか

ここまで営業の机の上を見てきた。今度はあなたの机の話である。前日にやるべきことは三つしかない。

  • 自分のシートの最終版を確認する。顧客に提出されたシートは、あなたが書いたものと同一とは限らない。営業の加筆を知らないまま面談に出れば、あなたは自分の経歴と矛盾する答えをすることになる。「顧客に出した最終版をください」の一言でいい。
  • 単価と商流を営業に確認しておく。面談の場で聞くのではない。前日に、営業に聞くのだ。ここで答えを渋る営業なら、その案件の商流は深いと推定して差し支えない。
  • 答えたくない質問の線引きを自分で決めておく。離任の理由、前の現場の内情、プライベート。どこまで話し、どこから「契約に関わるので営業を通してください」と返すか。線を引くのは営業ではない。あなたである。

三つ合わせて、三十分もかからない。だがこの三十分をやったエンジニアとやらなかったエンジニアの差は、当日の一時間ではっきり出る。準備は、営業だけの仕事ではないのだ。

面談前夜は、営業の質を測る夜でもある

最後に一つ。前日の準備の丁寧さ——想定問答を渡してくれるか、事前情報を取ってくれるか、握りの理由を説明してくれるか——は、その営業と所属会社の質をそのまま映す鏡である。面談の前夜は、案件の入口であると同時に、いまの座組みを見直す機会でもあるということだ。

商流の浅い案件を自分で取りにいくならフリーランスエージェント比較を、正社員として環境ごと変えるならIT転職エージェント比較を用意してある。前日の三十分と同じである。準備した者から、条件は良くなっていく。

FAQ

SESの面談で単価や商流について自分から質問してもいいですか?

面談の場では契約に関わる話題として営業に引き取られるのが通例で、その場で聞く実益は小さいです。確認すべき相手は顧客ではなく自社の営業であり、タイミングは前日までが適切です。回答を渋る営業であれば、商流が深い案件である可能性を織り込んで判断してください。

面談の前日に営業から何の連絡もないのは普通ですか?

珍しくはありませんが、良い状態でもありません。想定問答や当日の出席者・質問傾向といった事前情報を渡すのは、準備をしている営業なら通常行う作業です。連絡がない場合は、自分から顧客提出済みの最終版スキルシートと当日の情報を請求して構いません。

「面談」と「面接」は何が違うのですか?

SESの多くは準委任契約であり、建前の上では顧客が個人を選考する「面接」ではないとされるため、業界では「面談」「顔合わせ」と呼ばれます。形式と実態の間に緊張関係を抱えた言葉であり、個々の現場の法的な評価は実態によります。呼び方の違い自体に業界の構造が表れています。

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