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SES正社員からフリーランスへ|手取りが逆転する単価の分岐点を計算
SES正社員の年収とフリーランス単価の手取りを社会保険料・税金から徹底比較。逆転ラインは現年収の約1.3倍の年商だ。必要月単価の早見表、経験年数の目安、エージェント利用の流れまで現役SES仲介業者が解説する。
まず数字を見てほしい。IT人材メディア・HLTが公開する「SESエンジニアの年収・月単価相場(2026年最新版)」によれば、SESエンジニアの平均年収は約408万円。20代に限れば339万円である。一方、レバテックフリーランスの公開データでは、フリーランスのシステムエンジニア(SE)の平均月単価は72万円。単純計算で年商864万円になる。額面の差はおよそ2倍。この数字を前にして、独立が頭をよぎらないエンジニアはいないだろう。
だが、断っておく。年商は年収ではない。ましてや手取りではない。本サイト運営者はSES仲介の現役事業者である。商流の内側で正社員の給与明細もフリーランスの請求書も見てきた立場から、この「2倍」の正体を、社会保険料と税から分解してみせる。
会社員の社会保険は「半額」である
最初の壁は社会保険だ。会社員の厚生年金と健康保険は労使折半、つまり会社が半分を負担している。給与明細で引かれている額は、実際のコストの半分にすぎない。
フリーランスになれば、この折半が消える。日本年金機構の公表によれば、国民年金保険料は令和8年度で月額17,920円。厚生年金より安く見えるが、その分将来の給付は基礎年金のみに痩せる。健康保険は国民健康保険に切り替わり、前年所得に連動して全額自己負担。会社員の健保にあった「扶養」の概念もないから、配偶者や子を扶養に入れていた人ほど独立後の負担は跳ねる。傷病手当金も原則ない。倒れた瞬間に収入が止まるのがフリーランスである。
税はどうか。青色申告特別控除65万円と経費計上という武器はある。だが2026年の今、消費税からは逃げられない。国税庁の案内によれば、インボイス登録した小規模事業者が売上税額の2割納付で済む「2割特例」は、令和8年9月30日を含む課税期間まで。個人事業主は令和8年分の申告が最後であり、令和8年度税制改正で令和9年・10年分は「3割」の負担軽減措置へ移行する。負担は静かに、段階的に増えていく設計だ。
手取りが並ぶ分岐点を計算する
では、いくら稼げば逆転するのか。税金・社会保障教育サイトの早見表では、会社員の手取りは年収500万円で約390万円。対して、個人事業主向けメディア・ペイッターの手取り早見表(青色申告65万円控除・経費考慮前)では、年商550万円前後で手取りはほぼ同じ390万円に届く。これを各年収帯で並べたのが次の表である。
| 会社員の額面年収 | 会社員の手取り(概算) | 同じ手取りになる年商(概算) | 保障差3割を織り込んだ必要月単価 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 約315万円 | 約440万円 | 約48万円 |
| 500万円 | 約390万円 | 約550万円 | 約60万円 |
| 600万円 | 約460万円 | 約680万円 | 約74万円 |
| 700万円 | 約525万円 | 約790万円 | 約86万円 |
※国民健康保険料は自治体・家族構成で大きく変わる。すべて概算として読んでほしい。
3列目を見てほしい。税と社会保険だけの勝負なら、会社員年収の1.1倍程度の年商で手取りは並んでしまう。年収500万円の会社員なら月単価46万円。拍子抜けするほど低い。だが、この数字で独立を決めるのは早計だ。
SES平均年収408万円の場合
SESの平均年収408万円で計算してみよう。手取りは約320万円。税・社会保険だけの逆転ラインは年商450万円、月単価にしてわずか38万円だ。保障差を織り込んでも月50万円弱。レバテックフリーランスのプログラマー平均66万円は、これを大きく上回る。SESの給与水準が市場単価に対していかに圧縮されているか、この一点だけでも分かるはずだ。
もう一つ、表にない現実がある。経費だ。ペイッターの早見表は経費考慮前であり、実際にはPC・通信費・書籍・作業環境などで年数十万円は出ていく。経費は課税所得を圧縮するが、キャッシュは確実に減る。「経費で落ちるから得」という言葉を、私は信用しない。
会社員の「見えない報酬」を値付けせよ
会社員には給与明細に載らない報酬がある。私はこれを金額換算しておよそ3割と見積もる。
- 賞与と退職金 — フリーランスに賞与月はない。退職金もない。
- 傷病手当金と失業給付 — 病気で休んでも、契約が切れても、セーフティネットは会社員のものだ。
- 有給休暇 — フリーランスの休暇は無給である。年20日休めば、それだけで稼働の約8%が消える。
- 契約終了リスク — 案件の空白期間は収入ゼロ。稼働率100%の前提は甘い。
だから表の右端、年商に1.3を掛けて12で割った月単価を、私は「実務的な分岐点」と呼ぶ。年収500万円の正社員なら月60万円。ここを超えて初めて、独立は数字の上で合理的になる。
何年目・どのスキルなら転身が合理的か
月60万円は高い壁なのか。レバテックフリーランスの単価相場を見ると、プログラマーの平均は66万円、SEは72万円、プロジェクトマネージャーは88万円、ITコンサルタントは103万円。言語別ではJavaが68万円、Pythonが77万円、Goは83万円である。市場の平均は、分岐点をすでに超えている。
問題は単価ではない。その案件に乗れるかどうかだ。仲介の現場感覚で言えば、エージェント経由で安定して商流に乗る最低ラインは実務経験3年である。3年未満はそもそも提案が通りにくい。逆に、SES正社員として3〜5年、設計工程かクラウド周りを経験した人材なら、月55〜70万円の案件は現実的な射程に入る。前掲のHLTの記事は、SESの一般的なマージン率を20〜39%と伝えている。自分の単価が仮に70万円で年収が400万円台なら、その差額の行き先を一度計算してみるべきだ。
ただし急いで付け加える。SES正社員のまま還元率の高い会社へ移る道もあるし、住宅ローンの審査や家族構成など、数字にならない事情は人の数だけある。独立が常に正解だとは、私は言わない。
エージェント利用の流れ — 5つのステップ
独立を決めたら、案件確保はエージェント経由が現実的だ。流れは5段階である。
- 1. 登録・面談 — スキルシートを整備し、経験と希望単価を擦り合わせる。
- 2. 案件提案 — 単価だけでなく、商流(何次請けか)とリモート可否を必ず確認する。
- 3. 商談(顔合わせ) — 実質的な面接。2〜3件並行で進めるのが普通だ。
- 4. 契約 — 準委任契約が主流。精算幅(140〜180時間など)と支払サイトを確認する。
- 5. 参画・請求 — 月末に作業報告と請求書。以後は継続・更新の交渉になる。
追い風もある。2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、発注側に取引条件の明示と、報酬の60日以内支払いを義務づけた。買い叩きと支払い遅延という古典的なリスクを、法が一定程度塞いだのである。
営業の机の向こう側 — あなたの独立を、所属会社はこう計算している
視点を変えよう。あなたが「独立を考えている」と口にした瞬間、営業の机の上で何が起きるか。仲介の現場から、その計算の構造を書いておく。
現場で稼働中のエンジニアが抜ければ、会社はその現場の売上を丸ごと失う。単価70万円なら年間840万円が消える計算だ。空いた枠に後任を提案できればいいが、エンドや上位会社は「同じ会社からの交代要員」を無条件には受けない。後任が通らなければ、その商流での実績と信頼も痩せる。つまりあなたの退職は、給与ひとり分の話ではない。売上と取引口座を同時に揺らす事件なのである。
だから引き止めの強度は、あなたへの情ではなく、あなたの現場の粗利に比例する。単価が高く、マージンが厚く、長く続いている現場ほど、面談の回数は増え、昇給の提示は具体的になる。粗利の薄い現場なら、慰留は形式で終わる。引き止めの熱量は、会社があなたに付けている値札そのものだ。冷静に観察すればいい。
もう一つ、独立して今の現場と直接契約できるか、という問いには構造で答えておく。実務上、ほぼ通らない。エンドや上位会社にとって、既存の商流を飛ばしてあなた個人と契約することは、取引先との関係を壊す行為だからだ。契約書に競業避止や直接取引禁止の条項が置かれていることも多い。個別の有効性はここでは論じないが、少なくとも「円満に商流を飛ばす」道は用意されていない。これが実務の一般論である。
読者への実利はこうだ。独立の計画は、今の現場の継続を前提に組まないこと。エージェント経由で新規案件を取りにいく設計で数字を引き直すこと。そして引き止め面談は、感情で受けずに、自分の粗利と市場価値を推し量る材料として使うことだ。
結論 — 独立は感情ではなく計算で決めるものだ
整理する。手取りの逆転ラインは、税・社会保険だけなら現年収の約1.1倍の年商。会社員の見えない報酬を織り込めば約1.3倍、月単価にして現年収500万円なら60万円前後である。実務3年以上で設計かクラウドの経験があるなら、市場平均はすでにその上にある。あとは自分の生活とリスク許容度に照らして決めればいい。転職も独立も、最後に判断するのは読者自身である。
案件やキャリアの無料相談は本サイトの相談窓口へ。SES仲介の現場から、数字で答える。
FAQ よくある質問
フリーランスエンジニアは月単価いくらから会社員より手取りが増えますか?
税金と社会保険だけで比べれば、現在の年収の約1.1倍の年商(年収500万円なら月単価46万円前後)で手取りは並びます。ただし賞与・退職金・傷病手当金・有給休暇などの保障差を金額換算すると、実務的な分岐点は約1.3倍、月単価60万円前後が目安です。国民健康保険料は自治体や家族構成で変わるため、あくまで概算として自分の条件で試算してください。
SES正社員からフリーランスになるには実務経験は何年必要ですか?
エージェント経由で安定して案件に参画するには、実務経験3年前後が現実的な最低ラインです。3〜5年で設計工程やクラウド構築の経験があれば、月55〜70万円の案件が射程に入ります。レバテックフリーランスの公開データではSE平均単価は72万円、Python案件は77万円で、経験とスキル次第で分岐点を超えることは十分可能です。
フリーランスになると社会保険料はどれくらい変わりますか?
厚生年金は国民年金(令和8年度は月額17,920円)に変わり、保険料は下がる一方で将来の給付は基礎年金のみになります。健康保険は国民健康保険となり、労使折半がなく全額自己負担で、扶養の概念もありません。傷病手当金も原則なく、病気やケガで働けない期間の収入保障が薄くなる点は独立前に必ず織り込むべきです。
インボイス制度でフリーランスの手取りはどのくらい減りますか?
インボイス登録した小規模事業者は「2割特例」により売上税額の2割の納付で済みます(税込売上の約1.8%相当)。国税庁の案内では2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間までで、個人事業主は令和8年分の申告が最後です。令和8年度税制改正により令和9年・10年分は3割の負担軽減措置へ移行するため、消費税負担は段階的に増えていきます。